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檜山良昭  「ソ連本土決戦」  の読書感想。

檜山良昭  「ソ連本土決戦」  光文社文庫

檜山良昭  「ソ連本土決戦」  光文社文庫


「日本本土決戦」「アメリカ本土決戦」と並ぶ、
著者渾身の本土決戦三部作の一作。
この文庫版でも初版が1989年だから、かれこれ20年前の作品。
それなのに構想やシミュレーションがちっとも陳腐化しておらず、
ある意味完成版ともいえる出来。

太平洋戦争直前、日本はアメリカとの関係悪化修復を試みているが、
なかなか進展はしていない。そんな折り、ドイツがソ連に侵攻。
モスクワ目指してドイツ軍は三方面で北上してゆく。

そんな好機を満洲の関東軍は黙って見送っていられるのか?
「もし」、関東軍が謀略を用いて、暴発していたら・・・と云うのが本書。

いくらソ連がドイツから猛攻を受けていても、ソ連は大国。
ドイツの電撃作戦で開戦当初は押しに押されるが、
反撃体勢が次第に整っていく。逆にソ連極東方面軍と
辛うじて拮抗できる兵力で暴発せざるを得ない関東軍は、
侵攻当初から四苦八苦。
早々に計画の破綻が見始められる。

ドイツ撃退の感触が出始め、関東軍とも持久戦が展開されだす。
そう、季節は「冬」に入ってゆく。
夏用体勢で侵攻した日本軍はソ連の冬が来る前に、
第一次計画完了を前提に暴発しただけに、
それが不可能となった「冬」、暗澹たる未来が見え出す。
そんな終盤で本書は終わる。

アメリカのソ連協力や外交も綿密に描かれており、
想定されうる限りの「イフ」が描かれている。
「日本本土決戦」「アメリカ本土決戦」の後に書かれただけあって、
緻密さは前者を遥かに凌ぎ、シミュレーションが好きな人には
堪らない内容となっている。


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小川一水  「第六大陸」  の読書感想。

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小川一水  「第六大陸」(1・2)  ハヤカワ文庫

小川一水  「第六大陸」(1・2)  ハヤカワ文庫


本書は1と2に別れていたが、余りの面白さに一揆読み。
久々に呼んだ「日本」SFでしたが、ここまで面白くなってるんですか!
日本SF。

第35回星雲賞日本長編部門受賞作品。

時はそれほど未来でない2025年、日本。
本の紹介では「月に結婚式場を造ろうと云う話」だったはずが、
冒頭は深海船の話から始まる。

このグルーヴ感が作品理解意欲を程好く高め、
物語にどんどん引きずり込まれる。
本筋から入るのでなく、登場人物を別の形で登場させつつ、
各人物のイメージや能力を紹介してゆく。
もちろん、謎も。

全世界で過酷な状況での建設事業を得意とする日本の建設会社、
民間化したものの採算が合わず秘密技術を腐らしているロケット会社、
そして月に結婚式場を造りたいと依頼してきた老人と少女。

三社と各社の様々な登場人物たちの想いが交叉しながら
月へのロケットは発進する。綿密で理系魂を熱くする詳細な下地の上に、
民間が月を開発していこうと言う夢見たいな話が、限りなく現実を
直視しながら書き進められてゆく。

主人公の建設主任と依頼主の少女の恋の行方や、
月面開発の成否は予想がつく。
それよりも、次から次へと巻き起こる事故やトラブルを
丹念にクリアしてゆく過程がリアルで面白い。

結果よりも過程が面白いというのもなんですが、
過程を面白く書ける作家てのは実力のある証左。
これは気に入った。

様々な技術的な困難対処は勿論、アメリカや中国などのライバルとの対立、
はたまた国際裁判、主人公たちの心のすれ違いや親子の確執、
ロケット開発者の非業の死。

考えてみたらテンコ盛りなストーリーなのに、
詰め込みすぎとは思わせない自然な流れ。
本書は「2」でしっかりと終わっているが、
「3」が出たら絶対読みたいと思わせる終わらせ方。

小川一水の他の本を、ただいま物色中。


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鶴見俊輔編  「本と私」  の読書感想。

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鶴見俊輔編  「本と私」  岩波新書

鶴見俊輔編  「本と私」  岩波新書


読むまでは、著者の読書体験本だと思ってた。
ところがよく見ると、鶴見俊輔「編」とある。
鶴見さんは、あくまで編者なのだ。
一体何を「編集」しているのか?

岩波書店創業90周年を企画して、一般人から本の思い出を募集したものだった。

応募総数818編、その中から厳選された19編が掲載されている。
正直堅苦しいものや、想像のつく話も混じっているが、なかなかどうして、
じんわりと心を突くイイ話も掲載されている。
しかも私が大好きな本に絡んだ話として。

 ・クラス会を企画してゆく中で、本を読んでくれた先生が思い出される話。
 ・飲み仲間たちで作った読書サークル、しかしあくまで読書は酒のつまみに
  抑えるというアイデア。
 ・トルコ民話にはまって、四十代後半から家族を夫に託して
  トルコ留学してしまう主婦。
 ・大阪のおばちゃんのハッスルパワー全開が伝わってくる、
  絵本の世界を活かしてお化け屋敷に仕立て上げる文化祭の話・・・。
  (この方の語り口が、一番引き込まれた。センスがある。)
  
本を読むといっても千差万別。
本ってったって、膨大なジャンルがあるし、味わい方がある。
高校生の頃は猛烈に読み込んでいた童話を思い出したし、
私みたいに読めもしないのに沢山本を買い込んでしまっている人もいる。

でも、みんな本が大好きな事が伝わってくる。
やっぱり本は面白いよなぁ、そう思わせてくれるし、自分の仲間たちが
背伸びして語っている気負いが微笑ましくて、読んで良かった。
すぐ読めるしね。


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波多野裕造  「物語アイルランドの歴史」  の読書感想。

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波多野裕造  「物語アイルランドの歴史」  中公新書

波多野裕造  「物語アイルランドの歴史」  中公新書


本文267ページ。
218ページ目でようやくイギリスから独立の目処が立った時は、
思わず目頭が熱くなった。

そう、アイルランドはイギリス本土の横にある島で、内乱に次ぐ内乱を重ね、
外圧に頼ってしまった事によってイギリスの介入、植民地化、併合に至り、
独立まで七百年を待たなければならなくなる。

想像してみよう。
もし欧州平泉を追われた義経が、捲土重来を期して大陸の勢力を
頼んでいたとしたら。中国やモンゴル、朝鮮などの属国もしくは
一部領土として何百年も経過する運命になっていたかもしれない。

アイルランドはその点、不運だった。
国土は英国本島より小さく、大陸にはフランス・ドイツが構え、
ヴァイキング(デンマークなど)なども度々侵略してきた。
決定的な軍事的天才、日本で云う信長秀吉家康とか、
清盛義経頼朝とか、尊氏正成といった戦士が登場しても、
日本のように「運」までも味方してくれなかった。

内乱は果てしなく続き、完全なる長期統一が遅れた。
その点、日本は天皇のもとで早々と国家は固まり、天皇という王家が
脈々と続くことによって外国からの侵略に一致団結できた。
様々な民族人種が移動して国家を形成している欧州は、
やはりそういった観点からは不安定だ。

イギリス、ドイツ、フランス、イタリーといった
列強国からみた欧州史は多いが、そうではない国家視点から見た
欧州史は非常に参考となり複眼的歴史観にも役立つ。

日本の幕末、大同小異、幕府だ朝廷だといった小異を捨て、
明治政府となってなかったら、アイルランド史は日本にとって
他人事でない歴史だっただろう。

著者は毎日新聞に45歳まで勤めたが、その後外務省入省、
アイルランド大使を務めた変り種。
ジャーナリストだったわけだが、文章はいささか硬い。
一冊で一国の全史を治める事に無理があるのは分かるが、
史実の詰め込みすぎで羅列になっている箇所が多く読みにくかった。

そうはいっても、こんな為になる本は新書ではそうそうなく、
なかなか良い読書になった。


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吉田秀和  「世界の指揮者」  の読書感想。

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吉田秀和  「世界の指揮者」  ちくま文庫    吉田秀和  「世界の指揮者」  新潮文庫

吉田秀和  「世界の指揮者」  ちくま文庫、新潮文庫


クラシック批評界の大御所、吉田秀和氏の代表作。

新潮文庫が原書とも云うべきもので、ヴァルター(ワルター)から始まり、
セル、ライナー、デ・サーバタ、クリュイタンス、クレンペラー、ベーム、
バーンスタイン、ムラヴィンスキー、トスカニーニ、ブッシュ、マゼール、
モントゥー、ショルティ、クラウス、ブーレーズ、ミュンシュ、
フルトヴェングラー、ジュリーニ、バルビローリ、クーベリック、ターリッヒ、
アンチェル、ロジェストヴェンスキー、フリッチャイ、アバド、カラヤンを
採り上げています。

新潮文庫はココまで。

上記のほとんどが今も愛好されている大指揮者たちですが、どうでしょう、
デ・サーバタやブッシュはマニアしか聴かないのではないでしょうか。
あれほど人気絶大だったベームは今や見る影も無いですし、
BPOを去ったアバドは安らかに活動しています。

わたし的にはモントゥーが意外と面白いと思ってますし、吉田氏の文章を
読んでいるとセルなんかもっともっと聴いてみたいと思わせてくれます。

ちくま文庫版では第2部「指揮者の風景」として、フルトヴェングラーの思い出、
ヴァルターのマーラー、カラヤンの死、セル、バーンスタインの死、ベームの死、
名匠ショルティ去る、ヴァント、バルシャイ、アバドと採り上げます。

この人はフルヴェンをナマで聴いてるんですね。
さすがの大批評家でもフルヴェン生体験は、どう伝えていいか
悩んでしまうほど良かったそうです。
意外なのはショルティを推していた事。
この人も今や、どんどん忘れ去られていっている指揮者。

第3部「指揮者とディスク」。
15枚のディスクが採り上げられていますが興味を惹いたのは、
チェリビダッケのフランス管弦楽作品集、クライバーのブラームス第2番、
シノーポリのマーラー第5番。
チェリは敢えてドイツものでなくフランスものについて語っている所が新鮮。

クライバーのブラ2は。マニアにとっては懐かしい話です。
シノーポリのマラ5は聴いた事が無いので、今後見つけ出したい一枚。
実際彼のシューマンや大地の歌は素晴らしいです。
シノーポリは今も生きていたら、きっと大マエストロに
伸し上がり始めていた事でしょう。

壮年期で亡くなってしまうと、ほんとに惜しいです。
ヒコックスもこれからっていう時に亡くなったんですが、シノーポリと
ヒコックスが八十歳くらいまで振ってたら、音楽界は変わった事でしょう。
コリン・デイヴィスも今の今まで健在だったから大きく変貌したのでしょうし、
ハイティンクなんかもこれからいよいよ熟成されるでしょうしね。

今回はちっとも読書感想になっていませんが、
クラシック好きには実に面白い一冊。

吉田氏の批評を肴に、そうだよな&そうかな&そうでもないんちゃうん?
とあれこれ考えながら読んでいくのは至福のひとときです。
文章が実に上手く、書いている事も筋が通っている。
だから今も氏の批評は必要とされ続けているのでしょう。


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